知識はお金で買う

中国のナレッジコンテンツブーム

Posted by Ding on February 23, 2017

知識はお金で買う - 中国のナレッジコンテンツブーム

はじめに

本文の目的

筆者が2016年年末に中国での生活は日本より便利になった文章の続編で、中国でブームとなったネット上のナレッジコンテンツサービスの進展を紹介し、日本のインタネット従業者の参考になればと考えている。

昔の中国

昔の中国は海賊版大国だった。PCのOS、ソフトウェア、日本の漫画、アニメ、アダルトビデオまですべて海賊版として流行っていた。誰も実体の無いモノに対してお金を払おうと思わなかった。今でもその流れが続いて、Windows10、Photoshopなどの有料ソフトが無料に使用しているのは一般的である。

中国には知識を買うことがブーム

ただし近年変化が起きている。中国のネットユーザーはネット上のコンテンツに対するペイメント意識が高まっている。ドラマ、映画、本などのコンテンツは全部有料になってきた。大衆はちゃんとその料金を支払っている。この変化は中国の経済発展よって自然の流れだと思う。ただし、面白いのは映画、ドラマ等のコンテンツは以外、知識を獲得するためにお金を払っている現象である。 —-

ナレッジコンテンツサービスとは

ナレッジコンテンツサービスとは、ヤフー知恵袋のようなQAサイト等、単なる内容の共有・発信ではなく、「誰かのため」というスタンスで「価値のある」コンテンツを提供するサービスと筆者が考えている。Facebook、Twitter等のSNSと比べ、「シェア」より「コンテンツの品質」、「オンデマンド」という属性が強い。「ニュース」という「情報」の本質を分析した結果となる「洞察」はナレッジの一種かと思う。

中国

中国のナレッジコンテンツを代表するサービスは中国版Quora「知乎」中国版ヤフー知恵袋「百度知道」だと考えています。最近新しく出てきたサービスは「得到」「分答」というサービスもありますが、ビジネスモデルとして日本もアメリカも相応するサービスが未だない。また、中国版Podcastである「喜马拉雅」も有名人のナレッジコンテンツを有料として配布し始めている。

日本

日本だと一番有名なのはヤフー知恵袋。元々日本版Quoraとして知られているQixilはすでにサービス終了になった。ちょっと最近新しいサービスだとクラウドソーシングとして有名なクラウドワークス社が提供しているWoWme(ワオミー)が挙げられる。ただし、これはもうナレッジコンテンツと言うより、スキルの売買というサービスなので、ちょっと今回のトピックから離れている。もう一つ言えるのはQiitaである。ただしQiitaはテック系に限定してしまっているため、影響範囲が小さいと考えている。かつ一方的に内容を発信しているため、ブログ配信サービスだと考えている。 —-

中国ナレッジコンテンツサービスの紹介

知乎

知乎は2011年に設立され、現時点では約2000万人のユーザーを持つQAサイトである。基本的なサービス内容はアメリカのQuoraと同じである。

ヤフー知恵袋との違い

知恵袋は匿名性のため、気軽に回答できるのは特徴。ただ、これによって、回答の品質がそれほど高くない。人間は利己主義の動物であるので、知らない人に「ありがとうございます。」と言われるぐらいの報酬しかもらえないサイトに必死に高品質の答えを書く人があんまりいない。つまりヤフー知恵袋はの質問側と回答側の匿名性によって、高品質の回答が生まれない体質となっている。 Deep Learningをどう入門するかという質問をヤフー知恵袋に投げても東大の教授がわざわざ問題の答えを作ってもらう可能性が非常に低い。(あくまで可能性が低いの話で当然書いてくれる親切な教授もいるかもしれない) 一方、知乎とQuoraは実名制を提唱している。回答側も質問側は質問する際に自分のネット上の「風評」に関わっているため、皆は慎重に質問/回答する。また、実名制にすることにより、回答側にひとつ大きいメリットがある。

  1. それは素晴らしい回答をすると、「この領域の専門家」として認識され、フォロワーがついてくる。
  2. 一定の影響力があれば、ちょっとした有名人になれる。
  3. 業界から注目が浴びることで自分のキャリアにプラスになる。 知乎ではこのような事例は少なくない。 実際どのぐらい答えの差が激しいのかを見てみましょう。Deep Learningに関する質問を知恵袋の方で検索したところ、このような質問と回答があった。Deep Learningを理解するまでの過程を教えていただけないでしょうか?回答として、参考書を勧められて、本の内容はちょっと紹介される程度です。これはヤフー知恵袋の代表的な回答。 一方、知乎の質問と回答を見てみよう。「深度学习如何入门?」(日本語に訳すとどうやってDeep Learningを入門するのか)という質問に対して、該当領域のスタートアップで働いているプロが非常に細かく書いていた。長過ぎたので、興味がある方サイトに入って見てください。(中国語分からなくても詳しさを実感できると思う) 実際のところ、知乎はただQuoraの中国版であり、アメリカのQuoraでも同じく学術的な問題で専門の学者のが細かく答えたりしている。また、QuoraのようなQAサイトでは「体験談」は多く掲載されている。
    • 東京大学に留学するのはどういう感じなのか
    • コンサルタントの仕事はどういう感じなのか
    • スタートアップを設立するのはどういう感じなのか このような体験は詳しく紹介されて、参考価値がかなり高い。

得到

得到は2016後半からリリースされたサービスであり、モバイルアプリしか提供されていない。このビジネスホテルは筆者の認識だとアメリカも日本もないと筆者が認識している。(あったら教えてください)具体的にどういうサービスを提供しているのかというと、「ニュース」「概念」「本」などをビジネス界の有名人の観点を加え、まとめてAudio形式で配信するサービスです。「毎日世の中の一つの物事を徹底的に理解する」と誇示している。もう少しサービスの構成を紹介します。

  • 無料ニュースは日本のNewspicksと少し似ているが、単なるニュースを提供するではなく、ニュースに対する洞察を一緒に提供している。また、各リサーチ機関が出した各種のレポートを分析もしている。一つのAudioは約5分となる。
  • 毎日読書は日本の本の要約サイト flierというサービスと似ているが、世界的に有名なビジネス本をAudio形式配信する。一つの本の解読Audio時間は約30分。毎日更新で一冊の本を聞くには100円、年間購読するなら8000円程度。
  • 有名人による購読は各業界有名人が一つの大きいテーマに絞って、一年間を掛けて購読ユーザーに開設していくサービス。「最新テクノロジーの洞察」、「キャリアを構築するのに必要な心構え」「ファイナンスマネジメント」など、スキルより、知見を広げるようなテーマとなっている。購読価格は年間約3000円。 3つのサービスの共通点としては全部情報を提供するじゃなくて、情報からあぶり出した洞察を提供している。このサービスは去年リリース後賛否両論になっているが、急成長はしている。筆者はすでにこのサービスに数万円を投入している。スマートフォンの普及により時間が非常に砕片化になっている今、細かい切られた30分、15分、10分に合わせて洞察を獲得できるサービスはナレッジ焦燥症の筆者にとっては重宝である。朝起きたらニュースをチェックし、通勤途中で一冊の本を聞き、帰り道は今日のキャリアに関する知識を学ぶ.。砕片の時間を全部有効に活用できる。

分答

分答のサービスは簡単にまとめるとQAサイトの音声版と言える。分答にも多くの有名人がアカウントを持っていて、有名人に数百円を払えば質問できるよう仕組みとなっている。有名人も60秒の音声解答ができる。そして、他のユーザーがこの解答の内容を見たいなら、同じく数百円を払えば解答を「盗聴」することが可能である。盗聴された質問の質問者も盗聴金として10円を貰える。 サイト上の有名人は解答の料金だけで年間1000万円以上儲かるケースもある。 —-

まとめ

3つサービスはそれぞれ使用シーンが異なっているが、共通のキーワードとしてやはり有名人となる。中国では2016年はVR元年だけではなく、「個人IPのキャッシュ化」の元年でもある。ここのIPというのはintellectual propertyの略で、つまり個人の知見・知識のことである。上記紹介されたサービスのように、有名人のintellectual propertyに対してお金払っても欲しがっている中国人が大量にいる。 一体誰なのか?その答えは中国の新中産階級である。中国の高速発展によって、中国では多くの中産階級が生まれている。ただし、彼らは非常に不安であり、超特急の中国という列車に置かれることに怯えている。激しい競争という背景で彼らは常に「学びたい」「スキルアップしたい」という焦りから生まれたモチベーションを持っている。帰属感や共感を求め、例え実用性のない概念をいっぱい覚えただけでも、その不安を抹消するためにお金を払って「成功者」の意見や知見を獲得する。更に中国の将来の経済状況が不明朗になればなるほど中産階級がより不安となり、ニーズが大きいくなる。上記3つのサービスはまさに中産階級のこのPain Pointを的確に見つけたと思う。

日本はどうなっているのか

日本の経済環境は比較的に安定している。終身雇用制で日本の中産階級も安定な環境で働いている。一番大きく人口の割合を占めている中産階級は新しい知識を獲得しないと淘汰されてしまうという焦りがそれほど強くない。安定な環境が悪いと言うつもりが無いが、「コンフォートゾーンから出よう!」と同じ考えで安定な環境は一つのコンフォートゾーンだと考えている。そしてこのコンフォートゾーンは個人から観測しにくいコンフォートゾーンであるため、なかなか出ようと思わない。

コンフォートゾーンから出ないとどうなるのか

コンフォートゾーンを出るニーズがないと高品質のネットコンテンツを提供するサービスが生まれない。(キクシルのサービス中止は一つの事例)一方、富裕層は視野がより広いため、コンフォートゾーンを観測できるが、ニーズがないから自分の知見を共有しようがない。これによって、ネット上にあるナレッジの質の低下する。次に何か起こるかというと、ある知識について調査しようとする時に、中国ではネット上で十分な情報を貰えるのに対し、日本では専門の本を購入したり、専門の学校に行ったりしないと行けないという高価かつ非効率なやり方しかない。言い換えると、生産性に大きく影響していることになる。この話は分かり易い例を上げるとよく日本の書店で見るMac入門書は不思議の存在である。中国では知乎で本以上の内容が紹介されている。ちょうど筆者が勤めている会社は全面的にMacbookに移行しようとしているが、多くの同僚が上手く移行できない、または移行したとしても便利なアプリを知らないまま「MAC使えない!」と文句を言っている。IT従業者なのに上手く移行できないこともネット上に高品質のコンテンツがないことと関連していると思う。勿論皆さんが死ぬほど残業しているからMAC入門書を読む時間もない。

最後

人騒がせをするつもりは全く無いが、筆者は在日中国人としてこの温度差を肌で感じている。日本ではもっと素晴らしい知見を持っている個人IPがいるはずなのに、それを獲得しようとするニーズがないのは非常に残念なことだと思う。ただし、近年すでに傾向は出ているが、日本でも少しずつ不安定の要素が増えているので、コンフォートゾーンから出ようとする人が増えている。何時か日本でも「Youtuber」だけじゃなくて優秀なビジネスマンも知見をシェアするだけで高所得が得られるようになるかもしれない。